男はポケットから鍵を取り出すと鍵穴に差し込んだ。 錠が動いてガチャリという硬質な音が響く。 男にとってその音は、朝、自分が外に出て誰もこの部屋を出入りしていないと保証してくれる、ガードマンの報告みたいなものだった。 「う続きを読む “日陰を探すねこのように。”
カテゴリーアーカイブ: 妄想
リアクションが命。
「あっ」 声を出してまず思ったことは、失敗したという後悔の念。そして次に思ったことは、生まれてからずっと悩まされている、自分の厄介な体質についてだった。 日曜日、私は近くに住むお祖母ちゃんの家へ向かっていた。母の命令で一続きを読む “リアクションが命。”
段ボールと雨
「いてて。あーツイてない」 僕は赤く染まった頬をさすりながら歩いていた。夕日の沈んでいく方角を見てみると紫色に染まった厚い雲の層が見える。明日は雨かもしれない。 「……本当にツイてないな。っとと」 片手で支えている段ボー続きを読む “段ボールと雨”
『ベシャメルソース』
結婚するとき、母に夫婦円満の秘訣を聞いた。昔から、母と父のような関係に憧れていたからだ。 「うーんそうだね。できるだけベシャメルソースを作らないことかな」 母の回答は私が想定していたものと全く違うものだった。 私は母の作続きを読む “『ベシャメルソース』”
『聞き間違い』
吾輩は犬である。名前は『マダナイ』。我ながら『マダナイ』とは奇妙な名前だと思うが、ご主人の敬愛する小説家の飼っていた猫の名前が『マダナイ』なのだそうだ。猫如きと同じ名前をつけられるのはいささか面白くないが、ご主人から頂戴続きを読む “『聞き間違い』”