日陰を探すねこのように。

男はポケットから鍵を取り出すと鍵穴に差し込んだ。
錠が動いてガチャリという硬質な音が響く。
男にとってその音は、朝、自分が外に出て誰もこの部屋を出入りしていないと保証してくれる、ガードマンの報告みたいなものだった。

「うわ、蒸し暑いね」

男の後ろにいた女が、開けたドアの隙間から部屋に侵入しようとした。
男は玄関に自分の靴以外なにも置かれていないことを確認してから女を中に入れた。

「適当にくつろいで」

男は女を部屋の中に入れるとリビングにあるソファーへ案内した。
女に自由に動かれるのはあまり好ましくない。
部屋を慌てて片付けた痕跡が、ありとあらゆる場所に潜んでいるからだ。
例えば部屋の隅にあるクローゼット、注意して開けなければ無理やり押し込んだ物体が雪崩を起こすだろう。

「ねえ、エアコンつけようよ」

「ごめん。エアコン壊れてるんだ」

「えっ」

女は操作していたスマートフォンから顔を上げると、眉をひそめ嘘でしょ、と目で訴えかけてきた。

「それが本当なんだ」

男はリモコンのボタンを押した。
エアコンは電源ランプを点灯させたあと、まったく動かず沈黙したままだった。

「ね」

「本当だ」

「業者に連絡したらさ、今繁忙期で修理できるのは一か月先なんだって」

「扇風機はないの?」

「買おうかと思ったんだけど、色々種類が多くて選ぶの面倒でさ」

「なにその理由」

「大丈夫大丈夫、涼しくなる方法なんていくらでもあるよ。例えば怪談とかね。試してみようか? ある日、初対面の男の部屋を訪れた女がいた。その女は」

「やめて。怖い話苦手なんだから」

女が帰ろうとしたので、男は謝り女をソファーへ座らせた。
男はどうしても、女を帰したくはなかった。

「じゃあとっておきの方法をやろう。ちょっと失礼」

そういうと男は女の隣に腰を掛けた。
女は少し驚いたようだったが、嫌がってはいないようだった。
男は女を怖がらせないように、ゆっくりと肩を抱き優しく自分の方へ引き寄せた。

「古代エジプトはとても暑くてね、気温よりも人肌のほうが涼しかったんだ。だから大金持ちは奴隷の女を買ってきて、抱き枕として扱っていたみたいだよ。つまり、今日みたいに暑い日は1人で寝るよりも、2人で寝る方が涼しいってことさ。どう、暑い?」

「ううん。思ってたよりも暑くない」

女は男の首に両腕を絡ませると、甘い声で話しかけてきた。

「でも、2人で動き続けてたら、暑くなっちゃうかも」

下から媚びるように声を上げる女を見て、男はもう大丈夫だと判断した。

「そう。だから水分補給は大事なんだ。ちょっと待ってて。冷たい飲み物を持ってくるから」

「ビールはある?」

台所へ向かう男の背後から女の声が聞こえる。

「アルコールはやめた方がいい。血流がよくなって、体温が上がるからね」

女のためではなく、自分のためにそう返事した。

男は冷蔵庫の横にある流しを見て青ざめた。
昨晩、部屋に誘った別の女の使用したグラスが、洗われずに置かれていた。
ご丁寧に紅い口紅付きで。

「危ないところだった」

男は女に気づかれないよう蛇口をひねりグラスを洗い始めた。
女のいた痕跡はすべて消したつもりだったが、慌てていたせいか思いのほか残っていた。
初め玄関にすぐ女を入れなかったのも、昨晩の女の痕跡が残っていないか、確認するためだった。
隠し損ねた痕跡は他にあるかもしれない。
女にバレるだろうか、そう思うと男は気が気ではなかった。

「ねえちょっと」

リビングから女の呼ぶ声が聞こえた。

「これ、なんなの。ベッドの下に落ちてたんだけど」

慌てて駆けつけてみると、女は何かを掴んでいた。
よく見なくても分かる。
それは昨晩、男の部屋を訪れた女が、持ち歩いていた鞄だ。

「よかった、見つけてくれたのか」

早口で言い訳しそうになる自分を抑えて、男はゆっくりと話し始めた。
こういうとき、下手に言い訳しても良い結果になる確率は少ない。
ならば意表を突く形で、全く相手の想像していない方向へ、話を逸らせばいいのだ。

「ありがとう。ずっと探していたんだよ」

「どういうこと?」

「実はこれさ、前に部屋に来た女の忘れ物なんだ。部屋に鞄を忘れたから取りに行くってしつこかったんだ。そんな鞄ないって言うと探させろって言うし、これで女に鞄を返すことができるよ。ありがとう」

「本当?」

「本当本当」

あくまでも男は女に興味がなく、女から言い寄られている感じを演出した。
ああ、面倒だなと思いつつ、あとはもうこの嘘を突き通すしかない。

「……分かった。信じてあげる」

男の軽薄な態度で怒気が薄まったのか、女はため息をつくと男に鞄を渡した。

「声出してると汗かいたから、先にシャワー浴びてくるね」

一度気持ちをリセットさせたいと思ったのか、女は男から距離を取るようにシャワー室へと向かった。

「それはいい。体をきれいにするのはとても大事なことだからね」

男の言葉を聞いて女は怪訝そうに顔をしかめたが、結局一言も発しないまま風呂場へと向かった。
男は女から受け取った鞄を雪崩を起こさないよう注意しながらクローゼットへしまうと、台所へ戻り飲み物作りを再開させた。

1人分の飲み物を作り終え、リビングにあるテーブルに運んだときだった。

「ねえ! ちょっと!」

風呂場から、再び女の男を呼ぶ声が聞こえた。

「ああ、面倒だ」

男は心の声を漏らすとシャワー室へと向かった。

「ねえ! なにあれ!」

風呂場にたどりつくと、裸になった女が洗面所で腰をついていた。
浴室と洗面所の境にある扉が開かれていて、シャワーが放水されたままだった。
いったい誰が掃除すると思っているんだ。
そう考えると、男の頭はカッと熱くなった。

「どうした」

「あ、……あれ」

震えた女の指先を見てみると、その先には浴槽があり、めくれた風呂カバーの下には、昨晩殺した女の死体が水で中に浮かんでいた。

「ああ、忘れていた」

男は自分の物忘れのひどさに落胆した。
玄関にあった靴はちゃんと隠しておいたけれど、ベッドの下の鞄、流しにあったグラス、そして浴槽で冷やしていた死体。
我ながら隠蔽が雑過ぎる。

「まあ失敗はしょうがない。今度から気を付けよう」

気を取り直すと、男は次の作業に取り掛かることにした。
目の前で腰を抜かしている女の首に手を回すと、ゆっくりと力を込め始めた。

「あれはな、昨晩使用した抱き枕だ」

男は女に話しかけながら指先に神経を集中する。
柔らかい肉の筋、控えめに膨らんでいる血管、そして、堅くて細い首の骨。

「エアコンが壊れても業者は忙しくて修理に来れない。扇風機は種類が多くて選ぶのが面倒くさい。だったら、女に声をかけて連れ込むしかないじゃないか。浴槽で浮かんでいるあれは、今日、君が捕まらなかったときのためにとっておいたんだ」

昨晩のあれを使用するとなると、タオルで水分を拭き取らなければならない。
余計な手間が省けてよかったと男は思った。

「ありがとう。君が来てくれたおかげで、面倒なことをしなくてすんだよ」

男はそう告げると、手のひらをぎゅっと握りこんだ。
骨と骨の間にある隙間からごきんという気味の良い音が聞こえ、女の体は動かなくなった。
まだ、女の肌からは生きていたときの余熱を感じるが、男が寝る準備を終えるころにはほど良く冷えているだろう。

抱き枕を作り終えた男は、リビングに戻り冷たい飲み物を飲み干した。
男はエアコンが直るまで、抱く枕を作り続けるつもりでいた。
男にとってその行為は、猫が太陽を避けるため日陰を探すように、暑さを和らげるための自然な行いだった。

「業者が来るまであと一か月か。ああ、面倒だ」

史上最大の戦い(中編)。

どうもちくわです。
今回も大日本プロレスの『一騎当千』について書こうと思います。

『一騎当千』については今のところ全五回記事を書くつもりなのですが、二回目である前回、「史上最大の戦い(前々編)」という謎のタイトルになってしまいました。
今回どうしようかと悩んでいたのですが、幸い、真ん中である三回目なので「中編」と綺麗に収まりました。
四回目はどう表現すべきか。
早くも記事の内容よりもそちらの方が気になって仕方ありません。

などとどうでもいいことで悩んでいたら、あっという間に『一騎当千』の開催日になってしまいます。
明日は明日の神風が吹いてくれる、と信じてスタートです。

巻きでいこう!

前回、Aブロックを紹介したので今回はBブロックの紹介となります。
Bブロックにエントリーされている猛者たちはこちら。

Bブロック
関本大介 (大日本プロレス)
橋本和樹 (大日本プロレス)
佐藤耕平 (プロレスリングZERO1)
滝澤大志 (2AW)
木髙イサミ NEW! (プロレスリングBASARA)

トピックスはなんと言っても木髙イサミ。
2月11日の後楽園で自ら参戦を発表したデスマッチ侍。
イサミの参戦により、Bブロックが最も他団体の参加選手が多いブロックとなりました。
それでは選手を紹介していきましょう。

関本大介

今回『一騎当千』に参加している全選手の中で圧倒的な実力と実績を誇るストロングの象徴、スラムダンクでいうところのゴリのポジションにいる人ですね。
数々のリーグ戦に参戦し経験値も十分、不安要素の見当たらない大本命。
意外にも『一騎当千』の優勝経験はなく、満を侍しての戴冠が期待されます。
フィジカル、メンタル、共に死角なく、余程のことがない限りこの人が優勝でしょう。

橋本和樹

真正面からバチバチ蹴り合うジュニアの特攻隊長。
去年までは見た目重視のバキバキボディでしたが、今回はヘビー級にパワー負けしないようウェイトマシマシ。
リング上での感情むき出しのシバキ合いは『一騎当千』で激しく燃え上がることでしょう。
熱いファイトで会場人気の高い和樹ですが、その戦いぶりをリーグ戦で続けられるかは話が別。
ただでさえ過酷なリーグ戦、ジュニアの体格でどこまで走り続けられるか、スタミナとタフさが予選突破の鍵です。

佐藤耕平

現在、関本とのコンビでタッグベルトを保持しているZERO1のエースが『一騎当千』に殴り込み。
重い蹴り、急所を射抜くエルボー、長身を活かした各種スープレックス、業界でもトップクラスの攻撃力は参加者にとって脅威です。
そして、今回参加している選手の中で数少ない関本に「格落ち」しない選手。
もちろん優勝候補の一人なのですが、どうしてこの二人が同じブロックに登録されているのか不思議です。
大日本ファンの支持率も上々、身内さながらリーグ戦を盛り上げてくれるはずです。

滝澤大志

2AW(元KAIENTAI DOJO)からの参戦。
先日行われた大日本との合同興行で、リング上から参戦を直訴し今回エントリーされました。
……ぶっちゃけ、今回参加している選手の中で唯一試合を見たことがないんですよね。
KAIENTAI DOJOといえば怪物 火野裕士やヒットマン 真霜拳͡號くらいの知識しかなかったので、情けない話滝澤は名前くらいしか知りませんでした。
現在新日本プロレスに参戦しているTAKAみちのくという名レスラーが期待していた選手なので、質の高いレスラーだとは思います。
まあ、今まで知らなかったレスラーを見ることができるのもリーグ戦の醍醐味ってなもんですよ。

木髙イサミ

歴戦の猛者でありBASARAの総大将、そして前年度『一騎当千』デスマッチ部門の覇者がストロング部門に電撃参戦。
他団体の選手ながら『大日魂』というキーワードを発信し一大センセーションを巻き起こしたこともありました。
所属選手さながらの大日本への愛情、試合終わりの上手過ぎるマイク、魂を震わせるデスマッチでの死闘。
関本とは違った意味での圧倒的な存在感を放つ選手です。
前代未聞のデスマッチ、ストロング、両部門の『一騎当千』制覇こそファンの求めるハッピーエンドなのかもしれません。

さて。 それではBブロックの予想と行きましょう。

本命 関本大介

対抗 佐藤耕平

注目 木髙イサミ

やはり本命は関本大介。
他にどれだけ素晴らしいレスラーが参加しようと、大日本プロレスで関本大介という存在を超えることは不可能でしょう。

対抗に佐藤耕平。
関本とは長年シノギを削りあってきたライバル関係。
このブロックで関本を正面突破できる可能性があるのは耕平だけではないでしょうか。

注目は木髙イサミ。
というか、こんなのイサミに注目せざるを得ません。
プロレスラーとしての「華」がありすぎるのです。
きっとリングの内外で『一騎当千』を面白くしてくれるはずです。

というわけで今回の予想は以上です。
関本がいてくれたおかげで楽に予想を終えることが出来ましたが、次回からはこんなにうまくいきそうにありません。
だってあのブロックにはこの選手とその選手がいるし、そのブロックにはその選手とあの選手がいるし、もう予想はシッチャカメッチャカです。

まあ、予想が外れるということは波乱が起きたということなので、新しい景色を見る楽しみが増えるということかもしれませんね。

史上最大の戦い(前々編)。

どうも、ちくわです。
プロレスの話をします。

前回、大日本プロレスにおけるシングルマッチ(一対一で戦う形式)のリーグ戦、『一騎当千』の概要について話しました。
本来ならば各ブロックの注目選手を紹介しリーグ戦の優勝者を予想して終わろうと思っていたのですが、それでは書きたいことを書ききれないという事実に気がつきました。
いやだってねえ、20名も参加する空前絶後の大シングルリーグなんですよ。
そりゃ書く側がらすりゃ物足りないのも必然です。
なので予定変更。
今回から各ブロックごとに選手を掘り下げ、さらにリーグ戦突破選手を予想します。

ところで、今回の『一騎当千』は4ブロックあるわけですから当然僕の書く文章も四回分に増えるわけです。
前回、タイトルで「前編」と銘打ってしまったので今回はどういう風に書こうかと悩みました。
結局、謎の「前々編」という書き方をしてみたのですが、なんだか「担々麺」みたいですよね。
まあ、細かいことを気にしてはいけません。
さっそく始めましょう、レッツ・ラ・ドン。

前回のおさらいです。
まずはAブロックにエントリーされている選手を紹介します。

橋本大地 (大日本プロレス)
河上隆一 (大日本プロレス)
兵頭 彰 (大日本プロレス)
T-Hawk  (OWE/#STRONGHEARTS)
稲村愛輝 (プロレスリング・ノア)

いやあ、こうして並べてみるとT-Hawkが目立っていますね。
英語というだけでこのインパクト。
しかし、重要なのは名前ではありません。
重要なのは実力です。
順に選手を掘り下げていきましょう

橋本大地

言わずと知れた『破壊王』橋本真也の息子。
ここ数年でかなり安定感が増し成長したと思います。
しかし、有名プロレスラーの息子となると話は別。
父親と同じ入場曲、父親と似たようなファイトスタイルにフィニッシュホールド。
橋本真也というビッグネームに頼っている印象は拭えず物足りないのが正直な感想。
現在、大日本プロレスのシングルチャンピオンなのですが、まだまだ『顔』というにはほど遠い感じ。
いいレスラーだとは思うんですけれどね。

河上隆一

別ブロックにエントリーされている菊田一美とのタッグ『飛艶』で去年から上昇気流に乗っている中堅どころ。
投げ技に定評があり昭和の名レスラー天龍源一郎と親交が深く、エルボーやチョップなどゴツゴツした攻めも得意。
ただ、使用している技は有名選手のモノばかりで若干説得力に乏しい。
オリジナルのフィニッシュホールドがあればかなり印象が変わると思うのですが……。
マイナス要素が多くなりましたが、実は今回かなり期待している選手。
河上世代が頑張れば大日本の未来は一気に明るくなるので、今回のリーグ戦でぜひ覚醒してほしい。

兵頭 彰

今回『一騎当千』初出場、大日本プロレス期待の若手。
とにかく元気、興行の前半戦でよく動いています。
1年前と比べて体の厚みが増し、タックルやエルボーといった基本的な攻防に迫力が出てきました。
興行の後半に出てくることも増え、着実にステップアップ中。
さらに先輩関本、同期加藤と『横浜ショッピングストリート6人タッグ王座』というベルトも巻き、勢いも十分。
リーグ戦突破の可能性はあまり高くないと思いますが、初のシングルリーグでどこまで爪痕を残すか注目の選手です。

T-Hawk

関西で圧倒的な支持を受ける団体『DRAGON GATE』出身、現在は海外に拠点を置きワールドワイドな活動をしているイケイケレスラー。
引き締まった肉体で動きは軽快、サブミッション、投げ技、打撃、そのすべてが高クオリティ。
別の団体でシングルチャンピオンにも輝き実績も申し分なし。
おそらく、今回紹介するAブロックの中で最もバランスのとれたレスラーでしょう。
他団体との兼ね合い次第ですが、リーグ戦突破の可能性はかなり高く、要注目レスラーです。

稲村愛輝

T-Hawk同様他団体からの参加枠。
プロレスリング・ノアで『金剛』というユニットに属し、反骨精神溢れるファイトが魅力の好人物。
実は兵頭よりもデビューが遅く、今回の『一騎当千』でもっとも新人。
他ブロックの優勝候補、関本大介が飛行機トラブルで大日本の興行に出られなくなったとき、関本から個人的な要請を請け会社を通さず大日本の試合に出場。
稲村曰く、「自分は会社の犬じゃないんで即決した」というエピソードが狂おしいほど好き。
若手らしからぬ行動力、タフさで先輩方から白星を奪っていただきたい。

以上がAブロックにエントリーされている選手の簡単な紹介でした。
続いてこのブロックの本命選手、二番目に来そうな対抗選手、そしてリーグ戦突破の可能性は低いが頑張ってほしい注目選手、という基準で3選手選んでみました。
当たるかどうかは別としてちくわさん的大予想、発表です。

本命 T-Hawk

対抗 河上隆一

注目 稲村愛輝

まずは本命T-Hawk、実績と実力、共に申し分なし。
アウェーでの活動が多いので、外敵という立場など関係なく大日本でもそのポテンシャルを発揮してくれるでしょう。

続いて対抗の河上隆一。
大地と悩んだのですが、河上が覚醒すれば団体内で大きなムーブメントが起こりそうな気がします。
これからの大日本を担ってほしい、という期待を込めて河上に一票。

最後に稲村愛輝。
若手らしからぬふてぶてしさは最早貫禄と言って差し支えないレベル。
他団体からの参戦という逆境をそのまま勢いに変えて大日本で大暴れしてほしい。

これらが僕の予想です。
ぶっちゃけ、チャンピオンである大地がなんだかんだで予選突破しそうなのですが、まだまだ団体の『顔』というイメージではないのでこのような結果となりました。
というかね、そろそろ違う景色が見たいんですよ。
あまりベルトに絡んでいない選手の活躍とかね。

というわけでも河上!
今回の『一騎当千』で鈴木秀樹からも称賛されるような活躍期待してるぞ!!!

リアクションが命。

「あっ」

声を出してまず思ったことは、失敗したという後悔の念。
そして次に思ったことは、生まれてからずっと悩まされている、自分の厄介な体質についてだった。

日曜日、私は近くに住むお祖母ちゃんの家へ向かっていた。
母の命令で一人暮らしをしているお祖母ちゃんの様子を伺いに行ったのだ。
途中、商店街を横切ろうとしたときアーケードの真ん中で、このご時世にあり得ない光景を見かけた。
行きかう人々の影に見たものは、唐草模様のほっかむりをかぶった全身真っ黒な服の泥棒だった。
私のお祖父ちゃんやお祖母ちゃん世代の人が想像する昔ながらの泥棒姿に、私は思わず声を出して反応してしまったのだ。

「お前」

声を出してしまった私に、泥棒は話しかけてきた。

「ちょうどよかった。誰かに手伝ってもらいたいと思ってたんだ」

厄介事に巻き込まれるのはいやだ、と考えた私は他の通行人たちと同じようにその泥棒のことを無視することにした。
当たり前だ、こんな恥ずかしい恰好をした人と関わりたくない。
怪しい存在は相手にしない、それが現代人の処世術だ。
しかし、かなり距離が離れていたにも関わらず、その泥棒は人波で溢れた商店街をあっという間に駆け抜けてきた。

「待て。話聞けって」

「分かった、分かりました。聞くからこっちに来てください」

こんな恰好をした泥棒と話しているところを人に見られたくない。
そう考えた私は渋々近くの神社へ移動した。
周囲に人がいないことを確認してから泥棒に話しかける。

「話ってなんですか?」

「ある家に忍び込むのを手伝ってほしいんだ」

ああ、やっぱり気づかないフリをしておけばよかった。
話を聞く前から、私は自分の迂闊さを呪い始めた。

話を聞いてみると、泥棒はなにか物を盗みたいわけではないらしい。
民家へ忍び込み、とある人物に一目会いたいだけなのだそうだ。

「こんな恰好なのに泥棒じゃないんですね」

「この格好は目立たないための変装だからな」

いや、現代だとその恰好は逆に目立つんですけれど、という言葉をなんとか飲み込んだ。

「でもそれって不法侵入ですよね。忍び込みたいんなら勝手にやってください。私に手伝えることがありません」

「確かにな。忍び込むだけなら俺一人で問題ない。ただ、どうしても人の手を借りなくちゃいけないことがあるんだ」

どういうことかと思い泥棒に話を促してみると、泥棒の会いたい人物とは女性でとっくに結婚しているのだという。
泥棒は今さら女性との関係を進展させるつもりはないのだが、どうしても最後に一目会い、自分の思いを伝えたいのだそうだ。

「余計なお節介を承知で言いますけど、そういうのは会わずにおいた方がいいと思います」

女性と会うと泥棒はきっと後悔することになる。
そう思ったので泥棒に助言した。

「そうかもな。でも、会わなくちゃ前に進めないんだ」

泥棒にそう言われると私は返す言葉がなかった。

「でも、どうやって思いを伝えるんですか?」

「贈り物だ」

泥棒は女性が結婚する前、好きな花を贈ると約束していたそうだ。

「花を見てくれれば、彼女はきっと俺の存在に気づいてくれる」

泥棒は自信満々に呟いた。
果たして本当にそうだろうか、泥棒の話を聞いていて私は不安になった。
泥棒の話を聞いているとポケットに入れておいた携帯電話が震えた。

「あっ、ちょっとすみません」

ディスプレイを見てみると友達の京子からの電話だった。

「吉野、今ヒマ?」

「ヒマじゃない。実は」

私は京子に一通り事情を説明した。
京子は大きな声で笑ったあと呆れながら忠告してきた。

「ったく。アンタはもっと自分の厄介な体質を自覚した方がいいよ。立派なトラブルメーカーなんだからね」

「分かってるけど……。ねえ、どうしたらいいと思う?」

「その泥棒の手伝いをするしかないんじゃないかな? もし吉野の手に余るようなら連絡ちょうだい。そんときは私も手伝う」

「うん。ありがと」

友情に感謝しつつ電話を切った。

「なにやってんだお前?」

泥棒は頭のおかしな人でも見るように私のことを見ていた。
こんな恰好をしている人にそんな目で見られるなんて、納得できず私はもやもやした気持ちになった。

その後も泥棒から詳しい話を聞いた。
初めは絶望的な難易度だと思っていたが、泥棒の話を聞いているうちになんとかなりそうだという気持ちになってきた。

その日の深夜、私は泥棒とある屋敷の前に集まっていた。

「なんだその服は」

私は学校指定のジャージに身を包んでいた。
動きやすい恰好を選んだだけなのだが、学校の外でジャージを着るのは思いのほか恥ずかしい。
隣に立っている泥棒と比べればはるかにマシなのに、なんだこの羞恥は。

「よしそれじゃ行くか。おい桜」

「はい?」

「はい、じゃねえよ。桜はどうした? 彼女の好きな花はお前が用意してくれるはずだろ」

「ああ、はいはい」

私は音を立てないよう注意して屋敷に入ると、敷地内にある立派な桜の木から一本枝を折った。
指揮棒くらいの大きさの枝には、きれいな桜の花がいくつかついている。

「おい、彼女の家のもの壊すなよ」

「桜の花って意外と手に入りづらいんですよ、家の人にはあとで謝っておきます」

「そうか……」

泥棒は納得していないようだったが、今はそれどころではないと判断し私の先を歩き始めた。

「おいこれだ」

先を歩いていた泥棒は庭の隅に置いてある植木鉢を指さした。
鉢をどかしてみるとそこには鍵があった。

「勝手口の鍵だ。これで中に入れるぞ」

私は鍵を摘まむと勝手口まで運び、静かに鍵穴に差し込んだ。
かちん、という錠の動く音が響いたとき肝を冷やしたが、幸いにも屋敷に明かりが灯ることはなかった。

「なにしてる。早くこい」

月明りも届かない真っ暗な室内を、泥棒は音もたてず進んでいく。
まるで暗闇と同化してしまったみたいで、私はあとを追いかけるのに苦労した。

「ここだな」

目的の部屋に辿り着くと泥棒は少し息を荒くしていた。
疲れているはずはない、おそらく緊張しているのだろう。

「じゃあ開けますね」

私は戸に手をかけた。
その戸は襖だったので金属音に怯える必要はなかったが、木と木の擦れる摩擦音がほんの少しだけした。

寝室では女性が一人横になっていた。
静かに上下する布団は一定のリズムを刻んでいて、まるで赤ん坊のように安らかな寝息をたてている。
カーテンとカーテンの隙間から月明かりが洩れ、幸せそうに眠っている彼女の寝顔を照らした。

「どうです? 見ない方がよかったですか?」

私は、彼女の顔を凝視する泥棒に恐る恐る尋ねた。

「いや、嬉しいよ。さすが俺の好きな人だ。こんな年になっても美しい」

泥棒は、年老いてしわくちゃになった私のお祖母ちゃんを見て、優しそうに微笑んだ。

「おい」

「あっ、そうか」

数十年ぶりの二人の再開の場に居合わせることができた私は、なんだかとても神聖な儀式でも眺めている心境になっていた。
泥棒の声を聞いて現実に戻ってきた私は持っていた桜の花をお祖母ちゃんの枕元に置いた。
桜の花、それはお祖母ちゃんの大好きな花だ。

「なんだか、お墓に供えてるみたい」

「あっ?」

気恥ずかしくて思わず出た言葉だったが、泥棒にすごい形相でこちらを睨まれた。
たしかに、質の悪い冗談だったと反省する。

「ありがとな。お前の協力がなければ実現できなかった」

お祖母ちゃんの横に置かれた桜を満足そうに眺め、泥棒がお礼を言った。

「別にいいですよ」

私もお祖母ちゃんの寝顔と桜を見ながら返事する。
お祖母ちゃんのロマンスに関われて不思議な気分だった。
すごくリアルな恋愛映画を鑑賞したような、謎の高揚感がある。

「じゃあ俺は行く」

「もう? まだ時間ありますよ」

「ないよ、早く行かなくちゃ。縁が合ったら近いうち会おうな」

「はあ、当分会いたくないですけど。朝、なにか伝えておきましょうか」

桜を見てもお祖母ちゃんが泥棒のことを思い出すとは限らないため、念のため尋ねておこうとしたら、すでに泥棒の姿はなかった。

「せっかちだなあ。ずっと会いたかったんだからもっとのんびりしていけばいいのに」

届かないとしりつつ、私は泥棒に向かって語り掛けていた。

「それで泥棒はどうなったの?」

翌日、朝のホームルーム前に別のクラスにいる京子のところへやってきて昨晩の報告をした。

「うん、成仏したみたい」

お祖母ちゃんの枕元に桜を置いたことで満足したのか、生前からの思いを晴らした泥棒はそのままあの世へ旅立ってしまった。

「今回はたまたま運よく解決したからよかったけど、いい加減気を付けた方がいいよ。その心霊体質」

「うん」

私が生まれてからずっと悩まされている厄介な体質、それは幽霊の姿が見えて話が出来てしまうということだ。
幼いころ、この妙な体質のせいでたくさんの厄介事に巻き込まれてきた。
人間と幽霊の見分けがつかないせいで、普通に幽霊に話しかけてしまうのだ。
今回だって泥棒が幽霊だと分かっていたらあんな声を上げなかった。
幽霊が見えていると気づかれないように、なんの反応もしなかっただろう。

「それでお祖母ちゃんは? 泥棒のこと話したの?」

「いや。枝折ったことだけ謝っといた」

朝、学校へ行く前お祖母ちゃんに電話した。
庭にある桜の枝を折ったのは私だと白状した。
お祖母ちゃんは桜のことが大好きなので怒られるかと思ったが、意外にも怒られなかった。
それどころか、電話口から聞こえるお祖母ちゃんの声は少し弾んでいるように聞こえた。
細かく説明を求められると厄介だなと思っていたので、お祖母ちゃんの機嫌が良いのは幸運だった。

「結局、泥棒は桜を運んでくれる協力者は欲しかったってことか」

「そうだね」

幽霊だった泥棒にとってお祖母ちゃんの部屋に忍び込むことは簡単だった。
でも、それでは思いを伝えられることができない。
だから協力者が必要だった。
自分の代わりに桜の花を枕元に置いてくれる協力者が。
今回たまたま孫である私がその役目に選ばれたのだ。

「吉野桜! チャイムはもうなっているぞ、自分の教室に戻れ!」

先生に名前を呼ばれびくっとした。
時計を見てみるとホームルームの開始時間はとっくに過ぎている。
桜、それはお祖母ちゃんがつけてくれた、私の名前だ。

「もう行くね、話聞いてくれてありがと京子」

「今度からもっと気を付けるんだよ。変な奴見かけても反応しないように」

「分かってるって、あっ」

廊下に出た瞬間、シルクハットをかぶって黒いマントに体を覆われたチョビ髭のおじさんがいたので、思わず私は声を上げた。

史上最大の戦い(前編)。

どうも、ちくわです。

さっき洗濯物を干すため外に出たのですがメッチャ寒くてビビりました。
こんなに寒いとついあま~いホットミルクティーを飲みたくなるのですが体重計の数字が気になるので歯を食いしばってガマンしなくては、なんて自制心の弱い僕ができるはずもなく即行で自販機に向かいました。
あま~いミルクティーうま~。

さて。
先日、大日本プロレスの上野大会において今年開催されるシングルのリーグ戦『一騎当千』の出場選手が発表されたました。
大日本のシングルリーグは少し特殊で、一年ごとにデスマッチ部門の『DEATH MATCH SURVIVOR』、ストロング部門(いわゆる通常ルールのプロレス)の『strong climb』を交互に行うという周期制。
去年はデスマッチ部門の開催だったので今回は今回はストロング部門『strong climb』の年となっております。
前回(二年前)こそ身内色の強い大会となっておりましたが今回はその真逆、様々な団体から出場選手を募りなんとその参加人数は過去最大の20人。
4ブロックに分かれ各ブロックの1位選手が決勝トーナメントで戦うという概要です。
前々回(四年前)は石川修司(当時フリー、現全日本)、真田 聖也(現SANADA)なども参戦しておりフリー選手インディー選手のオールスター戦という感じだったのですが、今回は別のベクトルでオールスター戦という様相。

こんなとんでもないイベント、プロレス好きとして喰いつかないワケにはいかないのですよ。
そこで、今回から前後編の二本仕立てでこの『一騎当千』について語っていきたいと思います。
前半後半の二本に収まるのかどうか甚だ疑問ですが、とりあえず始めてみましょう。

あっ、ちなみにタイトルはご察しの通りロックマン6からの引用ですが、僕は6を未プレイなので悪しからず。

まずは今回の一騎当千にエントリーされた猛者たちを紹介していきましょう。
各ブロックごとの紹介で選手名のあとは所属場所になります(無所属の場合はフリー表記)。
ではスターゥト!

Aブロック

橋本大地 (大日本プロレス)
河上隆一 (大日本プロレス)
兵頭 彰 (大日本プロレス)
T-Hawk  (OWE/#STRONGHEARTS)
稲村愛輝 (プロレスリング・ノア)

Bブロック

関本大介 (大日本プロレス)
橋本和樹 (大日本プロレス)
佐藤耕平 (プロレスリングZERO1)
滝澤大志 (2AW)
X     (本人の意向により2月11日後楽園大会で発表)

Cブロック

岡林裕二 (大日本プロレス)
浜 亮太 (大日本プロレス)
神谷英慶 (大日本プロレス)
火野裕士 (プロレスリングZERO1)
クワイエット・ストーム (フリー)

Dブロック

野村卓矢 (大日本プロレス)
中之上靖文(大日本プロレス)
菊田一美 (大日本プロレス)
青木優也 (大日本プロレス)
ジェイク・リー(全日本プロレス)

以上、全二十選手となっております。
どうですか、この超豪華な顔ぶれは。
ヤバくないですか?(語彙力)

BブロックのXについてはまだ発表さされておりませんが、すでに様々な噂が飛び交っております。
もちろん早く知りたいのですが、誰が出場するのか色々想像する時間もまた極上の贅沢。
まさにトランキーロ、あっせんなよ! といったところでしょうか。

てかマジでどのブロックもヤバいんですよ! 誰が予選突破するか全然分からなくて誰が優勝してもおかしくない顔ぶれ!
もうタマンナイ!!

などと騒いでいる間に結構な文字数に達してしまったので前編はここまでとさせていただきます。
後編は『ちくわさん的一騎当千、誰が優勝するのか大☆予想大会』を行う予定。
一騎当千及び予想大会の結果に乞うご期待!


……新日からも積極的にパクって節操のないブログだなあ。

段ボールと雨

「いてて。あーツイてない」

僕は赤く染まった頬をさすりながら歩いていた。
夕日の沈んでいく方角を見てみると紫色に染まった厚い雲の層が見える。
明日は雨かもしれない。

「……本当にツイてないな。っとと」

片手で支えている段ボール箱を落としてしまいそうになった。
バナナが一房入るだけで一杯になってしましそうなその段ボール箱は、片手で持つにはすごくバランスが悪いので、両手で持つことにした。
そもそも片手で気軽に持っていいものではないと反省する。

「さて、どうしようかな」

僕は家で激怒している父親の顔を思い出した。
令和も二年目になるというのに我が家では父による絶対君主制が敷かれていた。
ノリが古い、というわけではない。
むしろうちの父はフリーランスのITエンジニアとして日々勉強し時代の最先端を走り続けている。
ただ圧倒的に隙がなくて、優秀すぎるのだ。
息子の僕が何を言ったところですべて真正面から論破されてしまう。
おかげで僕は反抗期を迎えることもなく、父親に従順な性格に育ってしまった。
そんな父の唯一の欠点、それは頭に血がのぼるとつい手を出してしまうことだった。

「手を出すってことがもう古いんだけどね」

父親を目の前にしては絶対に言えない台詞を漏らしていると目的地である河川敷に辿り着いた。

「さて」

僕はあたりを二度三度見まわしたあと、誰もいないことを確認して段ボールをおろした。

「明日は晴れるといいな」

父の機嫌は少しは良くなっているだろうか。
家に戻ったあと、テルテル坊主をたくさん作ろうと思った。


「全然効かねーじゃん」

努力の甲斐もむなしく翌日はバケツをひっくり返したような大雨だった。
雨が降るとただでさえ憂鬱なのに、今日はその何倍も憂鬱になった。

「あっおはよう。津田くん」

学校に登校し教室に入ると山田さんから話しかけられた。
朝一番に会話をしたのが山田さんなんてすごくうれしい。
昨日から続いていた憂鬱な気分が少し紛れた。

「あのう津田くん。話があるんだけど」

「なに?」

「うん、あのね」

山田さんはずぶ濡れだった。
傘を家に忘れてきたのだろうか。
でも、雨に濡れた彼女も可愛らしかった。
好きだ。

「これ見てほしいんだ」

そういって山田さんは携帯電話の画面を見せてきた。

「手伝ってほしいことがあるんだけど」

「オッケー、分かった」

「えっ?」

その画面を見た瞬間、彼女の手伝ってほしいこと、そして、どうして山田さんがずぶ濡れになっているのか、すべて分かった。

「僕にできることはなんでもするよ。とりあえず放課後でいいかな、今じゃどうしようもできない」

「う、うん。ありがと」

やけに物分かりのいい僕の態度に戸惑いつつ山田さんは席に戻っていった。
僕も自分の席に移動し鞄をおろす。
すると後ろの席の林が話しかけてきた。

「おい、山田さんに好かれたいからって良い恰好するなよ。抜け駆けか? クラスの男子全員を敵に回すことになるぞ」

「馬鹿。そんなんじゃないんだよ」

そう、決してこれは下心ではない。
どちらかというと、これは山田さんの優しさに心打たれた結果なのだ。
やはり山田さんは素晴らしい。
男子全員から好かれるだけのことはある。
美しい外見だけでなく美しい心まで持っているとは。
大好きだ。

「あれ顔どうした? なんか腫れてるぞ」

「うるせー。親が怖くて青春できるか」

「はあ?」

林は難解な問題でも眺めるように僕の顔を見た。

次の日、僕は両側の頬を真っ赤に腫らして登校した。

「津田くんどうしたの?」

真っ先に山田さんが駆け寄ってきてくれた。
昨日の放課後の件があるからだろうが、僕の心配をしてくれているのも間違いない。
愛してる。

「なに、ちょっとオヤジと仲良く喧嘩してね」

「う、うん」

誤魔化し方がまずかったのか、山田さんは全然納得していない様子だった。

「山田さん、昨日見せてくれた画像、もう一回見せてよ」

「はい」

山田さんが教室で見せてくれた画像には、傘とその下で雨宿りしている子猫が写っていた。
傘は昨日山田さんが置いたもので、傘を置いてきた彼女は雨に打たれながら登校したのだ。

そして猫は、父の命令で僕が捨てた猫だった。
一昨日、猫嫌いの父親に殴られたあと、僕は無責任にも段ボール箱に入った猫を河川敷に置いてきたのだ。
いくら父の命令とはいえ、僕はずっとそのことを後悔していた。

「ねえ津田くん、本当に猫飼ってくれるの?」

「もちろん」

心配そうにこちらを見ている山田さんに僕は満面の笑みで答えた。
今まで父の言動に間違いはなかった。
でも、猫に関しては僕が正しい。
嫌いだからという理由で、子供に猫を捨てに行かせるのは絶対に間違っている。

「子猫のことは心配しないで。責任をもって僕が育てるから」

「ありがと」

山田さんが控えめに微笑みながら僕の手を握ってくれた。
なんて柔らかくて小さい手なのだろう。
子猫と一緒にこの手も僕が守らなければ。
結婚しよう。

心なしか、周りの雄どもから感じるプレッシャーが強まった気がした。
家に帰れば機嫌の悪い父親がいる。
学校に来れば嫉妬に狂った級友たちがいる。
子猫よりも先に僕の方が安住の地が必要なのではないか。
生命の危機を感じながら本気でそう思った。

『ベシャメルソース』

結婚するとき、母に夫婦円満の秘訣を聞いた。
昔から、母と父のような関係に憧れていたからだ。

「うーんそうだね。できるだけベシャメルソースを作らないことかな」

母の回答は私が想定していたものと全く違うものだった。

私は母の作るベシャメルソースが大好きだった。
幼いころ、偏食が激しくて野菜をほとんど食べない私が、唯一大人しく野菜を食べられる方法が、母の作ったベシャメルソースで野菜を味付けすることだった。
母のベシャメルソースさえあれば、ニンジンでもブロッコリーでも、美味しく食べることができた。
私にとって母の味とは、お味噌汁でも厚焼き玉子でもなく、母が時間をかけて作ってくれたベシャメルソースだった。

だから結婚が決まったとき、母にベシャメルソースの作り方を教えてもらった。
愛する夫や将来生まれてくる我が子に、私の大好きだった味を知ってもらいたいと思ったからだ。

それなのになぜ、母は私にベシャメルソースを作ることを控えろと言うのか。

「あっ。ひょっとしてお父さんがベシャメルソース嫌いなのと関係あるのかな?」

父は、ベシャメルソースが出てくると不機嫌になることが多かった。
私が母にベシャメルソースをねだる、母が私のわがままを聞いてくれる、父の機嫌が悪くなる。
それの繰り返しで、一時期我が家は不穏な空気が流れていた。

「……ふふっ」

母はしばらく押し黙ったあと、顔を背けて少し照れたように笑った。
目じりに深いしわが刻まれていて肌に瑞々しさはなかったが、その笑顔はとても可愛らしくて、魅力的に見えた。

「アンタ、男心が分かってないね。そんなんでよく結婚できたものだよ」

母は問題児の扱いに手を焼く先生のような顔をした。

私は母の言いつけを守らなかった。
夫との新しい生活が始まると早速ベシャメルソースを作った。

鍋にバターを引き、溶けて良い香りが漂ってくると小麦粉を適量入れる。
ヘラでじっくりとかき混ぜダマにならないよう注意しながら熱を加えていく。
このとき需要なのは焦らないことだ。
急いて乱暴にかき混ぜると、完成後に滑らかさが損なわれてしまう。
白く変色してくるとあらかじめ温めておいた牛乳を数回に分けて加えていく。
美味しくなあれ美味しくなあれ、そう念じながら食べてもらう人の顔を思い浮かべるのだ、と母は言っていた。
そうすることで、味が全然変わるらしい。
何回も何十回もヘラを回してかき混ぜ、ツヤと粘り気が出てきたら出来上がり。
長い時間をかけて絶対に妥協しないこと、これが母直伝のベシャメルソースの作り方だった。

初めて夫にベシャメルソースを食べてもらったとき、夫は感動のあまり立ち上がった。
どうだ、これが母直伝の味だ。
私は胸を張って、夫からの称賛を受けた。

夫の喜ぶ顔を忘れられなかった私は、休日のたびにベシャメルソースを作った。
すると、それまで味を誉めてくれていた夫は、ある日を境に、ベシャメルソースが食卓に出ると不機嫌な顔をするようになった。

いったいどうして?
理由が分からなかった。
味は落ちていなかったし、食事が終われば夫の機嫌は良くなる。

ひょっとしてベシャメルソースに原因があるのでは、と考えた私は、結婚前に受けた助言を思い出し母に相談してみた。

「あんたは一つ勘違いしているよ。父さんはベシャメルソースのことが嫌いじゃないからね。むしろ好きなんだから」

開口一番、母はそう言った。
ならばなぜ、昔父はベシャメルソースが食卓に出てくると不機嫌になっていたのか。
そう聞くと母は次のように答えた。

「どうせアンタ、ベシャメルソースを作るときあたしの言い付けを守って長い時間かけて作ってたんだろ? いや、それはいいんだよ正解。でもね、原因もそこなんだよ。だってアンタ、考えてごらんよ。たまの休日、好きな人とイチャイチャしたいのに相手はずっと鍋の前でヘラをかき混ぜている。しかもそれがしょっちゅうときたもんだ。旦那からしたらあんまり面白くないだろうね。まだ新婚なんだし恋人っぽいこともしたいだろうさ。えっ? 不満があるなら言えばいいじゃないかって? だから、それが男心を分かってないの。男はそういう考えをすること自体恥ずかしいと考える生き物だからね。男の雰囲気をこちらが汲んで、気づかないふりしつつ相手をしてあげなくちゃいけないもんなんだよ。要は、旦那は寂しがってたってわけ。アンタが相手すりゃ解決する問題だったんだよ。それで……もうここまで言えば分かるよね、昔お父さんが不機嫌になってた理由。もう! こんな話、親にさせるんじゃないよ!」

そう言うと、母は顔を赤く染めて目を背けた。

「そんな話分かるかっ!」

そう叫びつつも、やはり母と父のような関係になりたいな、と考える私だった。

『聞き間違い』

吾輩は犬である。
名前は『マダナイ』。
我ながら『マダナイ』とは奇妙な名前だと思うが、ご主人の敬愛する小説家の飼っていた猫の名前が『マダナイ』なのだそうだ。
猫如きと同じ名前をつけられるのはいささか面白くないが、ご主人から頂戴した名前に文句を言うつもりはない。
もしも死んでしまった暁には墓石にこの名前を刻んでもらう所存である。

吾輩のご主人は国家の安寧を守る警察官という職に就いていた。
日々、街頭で立哨し、街行く人々の安全に貢献していたのだ。
そのせいか、ご主人は犬である吾輩にも妙なことを課してきた。

「待て!」

ご主人は吾輩に餌を与えるとき、必ずこう言って十秒ほど時間を空けた。
そして、しばらく経つと満足そうに「よし!」と言うのである。
ご主人の「よし!」という合図で、ようやく吾輩は餌を食べることを許されるのだ。
もしご主人が「よし!」言わない場合、吾輩はいつまでも餌を食べることが出来ない。
子犬の頃、「よし!」と言われる前に餌に飛びついて餌を取り上げられたことがある。

ご主人によると、この「待て!」と「よし!」は警察犬の正しい礼儀なのだそうだ。
厳格なご主人の教育のおかげで、しがない飼い犬である吾輩も警察犬のように礼儀正しい犬になることが出来た。
吾輩はこの家にやってくることが出来て、本当に幸運だと考えている。

さて。
最近ちと気になることがある。
餌をもらうとき、ご主人の「待て!」「よし!」がはっきり聞こえないのだ。
ご主人が餌を吾輩の前に置いたあと、口を小さく開けてモゴモゴしているのだ。
わけが分からず吾輩がポカンとしていると、再びご主人が口をモゴモゴと動かす。
状況を考えるに、おそらくご主人は「待て!」と「よし!」を言っているのはずなのだ。
しかし、吾輩の耳はご主人の声をとらえることが出来ない。
しばらくして、ご主人がオズオズと餌を吾輩の口へ持ってくるので、ああやはり先ほどのモゴモゴは「待て!」と「よし!」だったのだなと思い餌を食べ始める。

ご主人は一人の時よく「人は年を取るとだめだ」と呟いていたが、それは犬も同じだ。
年を取ることで吾輩は、ご主人の声が聞こえづらくなってしまった。

ある日、餌の時間になってもご主人が出てこなかった。
吾輩は屋敷の方へ耳を澄ましてみたが、ご主人の足音は全く聞こえない。
いよいよ吾輩の耳はダメになったのかと不安に思ったが、何やら遠くの方で甲高い音が鳴っているのが聞こえたので、まだ大丈夫だと一安心した。

やがて、その甲高い音は徐々に屋敷の方へ近づきそれに比例して音の大きさを増していった。
あまりの五月蠅さに吾輩が耐え切れなくなって犬小屋の中に頭をうずめていると、屋敷のすぐ近くでその音はパタリと止んだ。
そして、ご主人が昔乗っていた車と同じように赤い灯りを点灯させる白い車から、これまた白い装束に身を包んだ人たちがえらい剣幕で降りてきた。
その人たちは屋敷の中に入っていくと、やがて銀色の台車に橙色の包みを乗せて、やってきたときと同じように騒々しい音を立てながら屋敷から去っていた。
あとに残されたのは耳鳴りがするほどの静寂と、鎖につながれた吾輩だけだった。

どうしてご主人はあんなに騒がしい集団がやってきたの出てこないのだろう。
いや、そもそもなぜ餌の時間を過ぎているのに吾輩に餌をくれないのだろう。
お天道様が真上で輝き西へ傾き始めても、ご主人は屋敷から姿を現さなかった。

ワオーン!

私は腹の底から声を出し吠えてみた。
しかし、屋敷からは何の反応もない。
まるで、神様のいなくなった社のように寒々としている。
吾輩がこの屋敷へやってきてから、こんなことは今まで一度もなかった。

ワオーン!

吾輩はもう一度吠えてみた。
ご主人、吾輩はここにいるぞ。
今日はまだ、餌をもらっていないぞ。

ワオーン!

ご主人、ご主人。
どうした、早く出てきてくれ。

ワオーン!

ご主人。
吾輩は、寂しいぞ。

プロのレスリングってなに? 

どうも、ちくわです。

今日は僕の大好きなものの一つ、プロレスについて語ろうと思います。
ただその内容はかなり主観的かつ独善的。
もしかしたらプロレスに興味のない人よりもプロレスのことが好きな人の方が反感を覚えるかもしれません。
ちょっとでも「うん?」と思ったら、そのまま回れ右してお帰りになられることをおススメします。

さて。
様々な場所で公言していますが僕はプロレスが大好きです。
鍛え上げられた肉体、唯一無二の個性、リングの内外で進行するストーリー、そのどれもが魅力的。
これらの要素をふんだんに織り込んだプロレスこそ他の追随を許さないキング・オブ・エンターテイメントでしょう。

プロレス好きを公言しているとファンじゃない方からかなりの確率でこう言われます。

『でもプロレスってやらせじゃん』

…………よろしい、ならば戦争だ。

いやいや落ち着け自分。
今日はそういう人たちと話しをするために来たんだから。

なので、今回はプロレスの『台本問題』について大いに語っていこうと思います。

『プロレスには台本がある』、たしかにね、そう主張する人たちの気持ちも分からないではないのですよ。
だって六十歳越えて歩くのも苦労しているおじいちゃんが飛んだり跳ねたりしている若者に勝ってしまう、それがプロレス。
他にこんな格闘技って珍しいですからね。

なのであらかじめハッキリさせておきましょう。
プロレスに台本は…………ある、と思います(血の涙を流しながら)。
この仮定を認めるのは本当に切なくて悲しくて断腸の思いなのですが僕はもう一段階先の話をしたいのです、認めなくちゃ話が進みません。
なので、ここではプロレスに台本があるという仮定で話を続けます。

プロレスには台本がある、という驚天動地な仮説ですが、もしこれが事実だった場合、リング上で行われている死闘はすべて嘘っぱちになってしまうのでしょうか。
答えは「ノー」です。
もし万が一台本が存在していたとしても、プロレスが最高のエンターテイメントである事実はまったく揺るぎません。

プロレスは台本があるから偽物だと主張する人に対して僕がよくする質問があります。

「じゃあ貴方はドラマや映画を見て、それらがすべてフィクションではなく現実の出来事だと思っているのですか」
「映像作品にも台本はありますが、貴方は台本がある=偽物という理由で映画やドラマを見ないのですか」と。

プロレスにもドラマにも台本はある。
なのにドラマだけ台本がある事実を受け入れられている、その違いは何か。
ズバリ、僕はそれを『納得感』だと考えます。
プロレスはドラマよりも納得しづらいのです。

面白いドラマというものは、魅力的なストーリー、出演している俳優の演技力などがしっかりしていれば成立すると思います。
たとえば、作中に多少不自然な表現があったとしても、上記の要素が素晴らしければ、人々は納得して感動することができるのです。

ではこれをプロレスに当てはめてみましょう。
プロレスもほとんど同じです。
ただ、ドラマよりも納得させる項目が増えてしまうのです

プロレスの面白い試合というものは、魅力的なストーリー、試合しているレスラーの実力、そして『試合しているレスラーの説得力』が必要不可欠になります。

たとえば、逆水平チョップを例にして検証してみましょう。

腕が枯れ木のように細いレスラーがいたとして、相手の胸をぺチンと叩いて3カウントとりました。
こんな試合の終わり方されたら僕だって納得できません。

では、はち切れん筋肉で膨れ上がった丸太のような腕を持つレスラーがいて、大きく振りかぶって相手の胸を叩きました。
バチンという嫌な音が会場中に響き渡り、対戦相手の胸は皮が裂けて出血しています。
チョップを受けたレスラーは痛みを紛らわすためリングの上をのたうち回り、苦しみのため立つこともままなりません。
その状態からチョップしたレスラーが3カウントを取った場合、めちゃくちゃ納得感がありませんか?
プロレスに台本があったとしてもこの成り行きを不自然に思う人は少ないでしょう。
プロレスラーの『説得力』とは、俳優にとっての演技力みたいなものなのです。

そして、優秀なプロレスラーというものはこの『説得力』が滅茶苦茶高いのです。
たとえ台本が存在したとしても、そんなのお構いなしで無理やり納得させられてしまうのです。
リング上のちょっとした佇まい、試合中の迫力ある攻防、再現することが難しい一瞬のひらめき。
こういうものが突出していれば、台本の有無など関係なく人間は感動することができるのです。
乱暴に言ってしまえば、「台本があるからなんやねん、今の試合、メッチャオモロかったやないか」となるのです。

今回の話の結論として、プロレスにはたしかに台本があるかもしれません。
でも、そんなことはどうでもいいのです。
そういうのをすべてひっくるめてプロレスなのです。
台本があろうとなかろうと僕はすべてのレスラーを尊敬し、心震える試合を提供してくれることに感謝しています。
きっと、その気持ちはこれからも変わらないでしょう。
以上です。

さて。
今回は本当に書きたいことを書きました。
結果、そこそこ刺激的な内容になってしまった気がします。
最初にも書いていますが、今回のブログは僕の主観的かつ独善的な意見なので、すべてのプロレスファンの意見だとは思わないでください。
あくまで、世間に影響力のない一プロレスファンの独り言なのです。
まだまだ語りたいことはたくさんありますが、とりあえず今回はこの辺で。

それにしても自己満足のために文章書くの楽し~。

そして引っ越しへ…

初めましての方そしてお久しぶりの方、まとめて挨拶させてもらいます。
どうもちくわです。

今までも別の場所でブログ……というか日記のような駄文を公開してたのですが、今回から諸事情によりこちらで活動を続けてい行きたいと思います。
といっても、本当に場所を変えてみただけで書く内容は変わりません。
今まで通り、過去の栄光や虚栄に偽りを綴りつつ、自分の好きなものについて好き勝手書いていく所存です。

さて。
引っ越しがたまたま新年一発目になってしまいましたが、良い機会なのでこれまでのでおさらいと言いますか、改めて自己紹介をしておきましょう。

〇名前
「ちくわさん」です。
「さん」の敬称まで含むのが正式です。
でも、ややこしいので本人も省略しがちです。

〇趣味
僕の頭の中は「小説 漫画 プロレス」で埋め尽くされています。
なのでそれに関係することですね。
小説読んだり、小説読んだり、プロレス見たりってことです。
ただ、最近時間がなくて全部滞りがちなんですよね。

〇このブログでやりたいこと
趣味のところでも書かれていますが「小説 漫画 プロレス」が大好きなので、それに関係することを書いていきたいですね。
あと去年はあまりブログを書いていなかったので、今年はもっと活動してこのブログを見た人々から「このちくわってやつ、頭おかしいんじゃないか?」と引かれるようなことを投稿していきたいと思います。

とまあこのような塩梅で、以前からお世話になっている方々すれば「なんだ今まで通りじゃねえかこの練り物」と野次が飛んできそうな内容ですが、去年は我ながら大人しかった一年間だった思うので、今年はもっと我がままにやりたい放題する予定です。
つまり、もっと嘘をついたり、プロレスの話をしたりするということですね。
誰にも共感されない話を滔々と述べる、それこそが僕の真骨頂。

明日から知り合い全員にそっぽ向かれる勢いで頑張ります!



そもそも、このブログのタイトルからしてマニアックなネタだからなあ……。